東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)212号 判決
一 原告の請求原因及び主張一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の有無について判断する。
原告は、本件考案における「ふた体の内側に突設した突出部を口金中央部に穿設した貫通孔に挿通すると共にこの突出部を口金の裏面に溶着」するというのは、口金の貫通孔に挿通されたふた体の突出部の端縁を押し拡げつつ口金の裏面に一体化するということを意味するものであり、このように、ふた体の突出部は、口金への組付前においては、その端縁にあらかじめ係止用のフランジ(大径部)が形成されているものではなく、口金の貫通孔とほぼ同径であるから、該貫通孔に突出部をスムーズに挿通することができ、また、そのために硬質プラスチツクを用いることができ、ふた体の突出部の端縁と口金とが溶着により一体化されて強固に結合されているから、開封時の大きな力を受けても、該突出部(の端縁)が貫通孔から抜け出ることがなく、確実な開封を行うことができるのに対し、引用例においては、ふた体と口金の内側部分とを一体化するためには、ふた体の突出部端縁にあらかじめ大径のフランジ部を形成しておき、このフランジ部をその弾性変形を利用してすぼませつつ口金の貫通孔に挿通するものであるから、ふた体と口金との組付をスムーズに行うことができず、また、ふた体を口金に組付けるときにその弾性変形を利用して行うために、軟質のプラスチツクでしか製作できないから、開封に際して大きな力を受けると、フランジ部が弾性変形して貫通孔から抜けでて、確実な開封が行えないというおそれを生じ易い旨の主張をする。
本件考案においてふた体として用いるプラスチツクは、その材質については本件実用新案登録請求の範囲が示すとおり、なんらの限定もないものであるから、硬質のものも軟質のものも含むことは当然であり、原告が本件考案の効果として主張するふた体の突出部の端縁と口金が一体化されて強固に結合され、ふた体が開封時に大きな力を受けても該突出部の端縁が貫通孔から抜け出ることがなく、確実な開封が行えるというのは、もつぱらふた体の突出部を口金の裏面に溶着することによるものと考えられるところ、引用例にもプラスチツクのふた体を口金に溶着して固定することが開示されていることが認められる(成立について争いのない甲第四号証第二欄五八行ないし六〇行目―訳文六頁一〇行ないし一二行目)。
原告は、前記のように、引用例においては、ふた体と口金の内側部分とを一体化するために、ふた体の突出部端縁にあらかじめ大径のフランジ部を形成しておき、このフランジ部をその弾性変形を利用してすぼませつつ口金の貫通孔に挿通するものであり、この点であらかじめフランジ部を形成しておく必要のない本件考案と相違すると主張する。なるほど前掲甲第四号証(第二欄五三行ないし五八行目―訳文六頁六行ないし一〇行目)には、ふた体はロツキング用反転フランジを有する旨が記載されている。しかしながら、この記載があることによつて、引用例のものはふた体を口金の貫通孔に挿入する以前に既にふた体にはロツキング用反転フランジがあり、これをすぼませつつ口金の貫通孔に挿入するものであると解することはできない。なぜならば、引用例のものは、ふた体の裏面から突出する突出部が口金の円板部の貫通孔内に係合し、かつその端縁のロツキング用反転フランジによりふた体を口金の円板部に固定するものであり、この円板部は外方環状部に裂け易い三つのつなぎ部を介して連結されたものである(甲第四号証第二欄四二ないし四五行目、同五三行ないし五八行目―訳文五頁一六行ないし一九行目、六頁六行ないし一〇行目―及び第三、第五図)から、ふた体が硬質プラスチツク製である場合はもちろん、軟質プラスチツク製である場合においても、ふた体の突出部端縁にあらかじめロツキング用反転フランジを形成しておけば、それを円板部の貫通孔に挿通することが実際上不可能ないし技術的に極めて困難であると考えられ、この点の解決に関する技術は何ら開示されていないからである。このことはまた、引用例においては、ふた体を引き抜く際、その突出部端縁のロツキング用反転フランジにより口金の裂け易いつなぎ部から円板部を分離させるもの(甲第四号証第二欄四五ないし五八行目―訳文五頁終から一行ないし六頁一〇行目―及び第四図)であるから、ふた体の口金への固定にあたり、右と同じフランジ部を円板部の貫通孔に貫通して挿入させようとすれば、引き抜く時と同じ理由により円板部がつなぎ部から分離するおそれがあり、有効な挿入の目的を達し得ないと考えられることからも言えることである。
原告は、引用例にはふた体を口金に溶着させる旨の記載部分はあるが、ふた体のどの部分と口金のどの部分とを溶着するのかは明示されておらず、その溶着とは、フランジを口金の裏面に係止することなく、すなわちフランジをなんら利用することなく、ふた体と口金とを一体化するための別の手段であると考えるべきであると主張するが、引用例にはふた体の突出部を口金の円板部の貫通孔に挿通することなく、ふた体と口金を溶着するとの思想はどこにも開示されておらず、引用例でいう溶着は口金に挿通されたふた体のロツキング用反転フランジを口金に溶着する意味であることは、引用例の記載(甲第四号証第二欄五八行ないし六〇行目)から明らかである。原告の主張は理由がない。
三 右のとおりであつて、審決が、本件考案はふた体の突出部の端縁を口金の裏面に溶着してなるのに対して、引用例のものは突出部端縁を口金裏面に係止するようにした点で両者は相違するが、右相違は単純な構成上の微差であつて結局両者は同一であるとした点で、必らずしも正確なものとはいえないが、前記判示のとおり、結局において審決の判断に誤りはない。
よつて原告の請求は理由がないからこれを棄却する。
〔編註〕 本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
口金の頂面中央部に貫通孔を設け、前記口金の貫通孔の外側に切り刻み線を穿設し、前記口金の外側にプラスチツクのふた体の内側の突出部を前記貫通孔に挿通すると共にこの突出部の端縁を口金の裏面に溶着し、前記口金で容器の開口端を包被固着した容器のふた